連載ビジネス人物学「深智録」
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第183回 深智録「格差と戦争:ウォルター・シャイデル②」
「平等化の四騎士」 「平等化の四騎士」として、戦争、革命、崩壊(国家破綻)、疫病(伝染病)が不平等を是正すると述べたシャイデルは、なぜその四つが平等化の要因になるのか、そのメカニズムを突き止めたのです。 古代の遺跡や埋葬から、ヒエラルキーや階層社会のような不平等社会は大昔から見られます。経済的な余剰の多寡が、政治的不平等を発展させていることがわかるのです。たいした余剰生産のない集団は、ほとんど、政治的不平等の形跡がないとシャイデルは言います。最初の「1%」、これが少数のエリートを生み出す構造と言えますが、 国家構造がうまく維持されている限り、エリート支配は安定していたと言うのです。 シャイデルは、富の獲得方法は、歴史上2つしかない、それは「作る」か、「奪う」かの二つであるとしながら、その二つの方法によって得られた資源をおのずと権力者に集中させることが、近代国家の特徴となっていると言います。そういう近代国家において、大きな暴力的破壊がないことこそが、「不平等」の形成と促進の決定的な必要条件であるとシャイデルは見ました。 「日本の場合:敗戦と平等化」 日本は鎖国まではあまり不平等が大きくなかったにもかかわらず、開国してから不平等化が進みます。江戸幕府の崩壊(国家破綻)と明治維新の開国、これにより、日本は不平等な国家になり、四大財閥とそれに連なる権力者たちによる富の独占が形成されます。ところが、1938年の春に「国家総動員法」が制定されて、政府は日本の経済を戦争遂行のために自由に使うことができることになりました。第二次世界大戦の泥沼の中に入り込んだ日本は、敗戦によって、類をみないレベルの平等化が起きました。日本は戦争によって平等化を果たした模範的かつ教科書的な事例になったというのが、シャイデルの近代国家日本の概観と分析になります。 以上のシャイデルの見方によれば、戦争は、戦勝国(米国)においては経済格差、不平等が拡大し、敗戦国(日本)においては経済の均等化、平等化が促進するということになります。戦勝国の指導者層は利益を期待できるのに対し、敗戦国の指導者層はそれができず、格差や不平等がおのずと抑制され、縮小されるということです。 誰もが世界の終わりと思った中世後期の伝染病の流行、それがペストですが、ペストに感染すると、50〜60%は数日で死亡します。肺ペストに感染すると肺から放出される飛沫で、人間同士の直接感染が起きます。こちらは死亡率ほぼ100%と言います。 ペスト流行の結果、何百年と続いたエリートへの富の集中による不平等が、ヨーロッパと中東でおきた疫病によって一変します。疫病による人口減少で、労働賃金は上がり、地代は下がるので、エリート層の資産は減少します。結果として、労働者が裕福になり、不平等が抑制されるという結果になりました。疫病による人口減少、これもまた、平等化の促進に役立った要因であると、シャイデルは分析し、解釈しています。2023年5月30日
共創日本ビジネスフォーラム研究所
第182回 深智録「格差と戦争:ウォルター・シャイデル①」 「格差と戦争」 19世紀、資本主義の財欲の嵐が、ヨーロッパのキリスト教社会に吹き荒れて、飢餓に苦しむ庶民たちが貧民窟から泣き叫ぶとき、カール・マルクス(1818-1883)が誕生して、人々の救いを掲げ、共産主義運動が巻き起こりました。 1917年、レーニンがロシア革命を起こし、労働者や農民を中心とするプロレタリアートを足場にして、王侯貴族や大土地所有者を中心とするブルジョアジーの打倒に成功すると、1922年、歴史上初の共産主義国家が「ソヴィエト連邦」として誕生します。 しかし、共産主義国家が革命のために殺害した犠牲者の数は約1億人(「共産主義黒書」クルトワ、1997年)と言われ、格差をなくするという経済的平等の大義はあっても、共産主義者たちの残忍な革命の手段と結果は、容易に認めがたいものがあります。 第一次世界大戦の死者が1600万人、第二次世界大戦の死者が6000万人、合わせて7600万人という数字と比較してみると、共産主義革命による死者数1億人は、残酷な数字であると言わざるを得ません。格差によって国内の戦争を展開した共産主義国家の歴史は、「格差と戦争」という研究テーマを私たちに突き付けるのです。 「暴力と不平等の人類史」 有史以来、貧富の差を縮めることに大きな役割を果たしたのは、「暴力的な衝撃」だという歯に衣を着せない発言で、世界中を驚かせたのは、ウォルター・シャイデル(1966-)であり、彼はスタンフォード大学教授として有名です。戦争や革命なしに平和的に平等化、平準化を実現することはできないのか、シャイデルは歴史の研究を重ね、その結果、格差がなくなるためには、衝撃的出来事が付き纏っているという事実を確認しました。 アメリカで最も裕福な20人は現在、アメリカの下位半分の世帯すべてをまとめたのと同等の資産を保有していると言います。欧州や旧ソ連、中国、インドなどでも所得と富の配分はますます不均衡になっています。 古代史を専門とし『暴力と不平等の人類史』(2017年)を上梓したスタンフォード大学教授のウォルター・シャイデルは、今後も格差は拡大していくと指摘しています。また、歴史的に不平等を是正してきたのは、「戦争・革命・崩壊・疫病」という4つの衝撃だけであることを明らかにし、今後の世界に警鐘を鳴らしています。4つの衝撃を「偉大な平等化装置」と見て、4人の騎士になぞらえます。「戦争」は第一の騎士、「革命」は第2の騎士、「崩壊」は第3の騎士、「疫病」は第4の騎士と呼ぶことにしたのです。 こう見ると、人々が格差の不条理に気付き、何とか、格差のない社会を作ろうと努力しても簡単に格差のない社会は作れないと、シャイデル教授は言いたげです。格差をなくするのに役立ったと見られる4つの衝撃「戦争」「革命」「崩壊」「疫病」を、シャイデルは、積極的に肯定しようとしているのではないにしても、歴史の偽らざる事実は、4つの衝撃が、何らかのかたちで、格差を埋める役割に貢献しているとし、彼の歴史研究の成果として世に発表し、その結果、大変な衝撃が世界に走ることになりました。2023年5月23日
共創日本ビジネスフォーラム研究所
第181回 深智録「イーロン・マスク(4):言論の自由を擁護する」
「世界の大富豪に駆け上った男イーロン・マスク」 わたしたちは現在、一人の巨大なスーパーウルトラ企業人を見ています。あまりにも自由奔放であるので、彼をどのように理解していいのか分からないほどです。彼の名はイーロン・マスク(1971年生れ)と言い、南アフリカで生まれました。 アメリカ国家が保証する自由の価値の中で、彼は起業し、発明し、企業家として大暴れしているといった印象を世界に与えています。彼の一挙手一等足から人々は目を離せません。彼のちょっとした発言で、株価は高騰し、あるいは下落します。 2021年1月7日、彼の純資産は1,885億ドル(約19兆9,586億円)超に達し、ジェフ・ベゾスを上回り世界一の富豪となりました。同年9月27日、推定保有資産が2034億ドル(約22兆6250億円)となり、さらに同年10月28日、推定保有資産が3020億ドル(約34兆4106億円)となりました。企業世界において彼は世界最強の座にいるのです。 「言論統制を嫌い言論の自由を擁護する」 イーロン・マスクの政治観を見ますと、リバタリアン(完全自由主義、自由至上主義)的な言動が目立ちますが、彼自身は政治的には、穏健派であると称しています。また、アメリカの民主党・共和党の二党制や左派・右派の二元論(善悪二元論)で分類されることを好みません。2020年の大統領選挙では、ジョー・バイデンに投票しましたが、2022年には大富豪税とポリコレ(人種、信条、性別などの違いによる偏見や差別を含まない中立的な表現や用語を用いること)による言論統制に反対し、民主党への不支持を表明します。同年、6月のテキサス州連邦下院の補選では共和党のメイラ・フローレスに投票し、2024年の大統領選でも共和党に投票する可能性を示唆しています。 マスクが言うには、かつての左派(リベラル)達は現在、極左になったため、マスク自身の立ち位置は変わっていないが、極左と化した彼らからは自分は中道右派に映るだろうと言っています。そして極左となり言論統制をするTwitter社やリベラルの人々を批判しています。マスクは、民主党の極左化に我慢がならないのです。彼のTwitter買収も言論統制する左翼全体主義を、民主主義にふさわしくないと考えたからです。 例えば、英紙デイリーメールの中で、「Twitterはリベラルな権威主義者によるいじめの巣窟と化し、議論は死に絶えた」と発言しています。また2020年アメリカ大統領選挙の終盤、バイデンの次男ハンターの不正疑惑を収めたパソコンが発見されたとの報道がありましたが、Twitterはその報道に関する投稿の表示を禁じました。Twitter側はこの対応はミスであると釈明して謝罪しましたが、マスクはそのTwitterの措置を民主党寄りの左翼的全体主義の偏向だとして強い反対を示しました。 ポリティカル・コレクトネスやトランスジェンダーに反対する「発言の自由」を、彼は絶対的に擁護しており、「ポリコレなマインドのウイルスはNetflixを見るに堪えないものにしている」と発言しています。マスク氏のこの気持ちは、偏向メディア権力の攻撃に晒されたトランプと一緒であり、この点で、二人は完全に同調し、一致しています。共創日本ビジネスフォーラム研究所
2023年5月16日